誰かに必要とされること
このシリーズは読むたびに新鮮な味わいがある。古き良き、という感じ方をする向きもあろうが、扱われる内容は、現代ものとみても差し支えないほどだ。 名高い親を越えられず、もがく息子。仕事場にも家庭にも居場所のない男の転落。男に捨てられようとする女がすがった嘘。 新聞で読んだことのあるような、初めて聞く話でないような。 教訓めいた結末も導きもなく、慶次郎も晃之助も、ばっさりと斬って捨てるような決着を選ばない。 迷いをおいたまま、物語は終わり、読者へ、結末を考えてくれるように投げられてくるようだ。 読みながら興奮して進む、というよりは、読んだ後の余韻に引きずられて何度も読み返し、考える。 私は登場人物たちの行動や考えを、理解できているかと。 表題作の「おひで」は、天涯孤独の寮番・佐助と、身内から距離を置かれているうえに男に捨てられたばかりのおひでの、わずかな期間の心の交流が描かれている。 今にたとえるならば、50すぎのオヤジと、軌道をそれた女子高生(それもアル中の)だろう。 どちらも、身内の縁に薄く、尽くした相手の「一番大事なもの」になれず、居場所がないのだ。 誰にも必要とされない寂しさ。おひでが酒に溺れ、最期には自分で自暴自棄になってしまったのは、そのせいだった。 子供に無関心な親が多く、子供は同じ家に住んでいても孤独を覚え、夜の街に出て群れ、携帯だけでつながる親友をたくさんもつ、という昨今。 江戸時代と設定しているとはいえ、変わった話だと思わない。 おひでは佐助の「一番大事なもの」になれたが、佐助の喪失感は深い。 年齢的に当時の平均寿命に届こうかという佐助は、また、ひとりぼっちになってしまったのだから。
新潮社
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